美術家 清水義光の芸術世界

制作

- 書 -

紙が宇宙に見えた時、勇気が湧き起こり、どこにでも飛び込めそうな心になる。
これを昔の人は第一の立体心「金石の気」と言い、弱気の平面心を戒めてきた。
太古は固い骨や青銅に占い文や子孫に伝える文などを鋭利な刀で刻し、失敗などすると首をはねられていたらしい。
今は紙に書き、失敗しても殺されはしない。しかし怖い、動物の毛で作られた筆の毛は人間の心を正直に表すからだ。

- 焼き物 -

信楽地方に産する土と長石による「手びねり作品」である。
轆轤を一切使わず、彫刻の気持ちで制作。それを「穴窯」で数日間焼き〆る。赤松による自然釉であり、釉薬は全く使用していない。
室町、桃山時代の光らない焼き物、渋い味わいに挑戦し続けている。
あらゆる焼き物の中で、特に中国新石器時代の作品に「焼き物も生き物でなければならない。」と強く感じ、その信念で制作している。

- 油絵・具象 -

美術の方で「心模手追」という言葉があり、これは昔の「胸中山水」と通じるものだろう。
見えたまま描くのではないよ、最初の感動をどうしたら描けるか胸の中で整理して描けよと言うのだろう。これが難しい。
ユックリしておれない心が自分の中にある。

- 油絵・抽象 -

昔、アメリカ古代インデアン・ナバホ族の肩掛けショールの展示を観てショックを受けた。
忘れていた素朴さと強さがここにある。自分も描いてみたいと思った。
空中を闊歩してみたいと思いながら描いている。

- 銅版レリーフ -

エッチングを試作している時、銅板自体を生かせないかと思いやり始めた。
このやり方は薄い銅板に堅い棒先で絵を描く。それを硫黄液に浸すのだが、何もしないと真っ黒になる。
そこで色々張り付けて浸透の工夫をする。秒単位で変化するので慌ただしい。
出鱈目を貴ぶ私に丁度いいようだ。

- 和紙ろう染め -

布のろう染は古代より伝わっている。
知人にごつい和紙を漉く人がいて,この紙ならろう染が可能かとやり始めた。
しかし、60度に熱したロウで描くとドンドンにじんでゆく、加えて筆が熱ロウで穂先がひん曲がる。
予定が狂って思わぬものになるから面白い。

- 陶印 -

石印をやる人は多い。
陶印は古代まで遡らないとそれらしいものに当たらない。最近は中川ー政先生が名陶印を残した。
先生に印を刻すよう勧め、それで始められた。私の陶印も喜んで下さった。
印は方寸の世界を豊かに広々遊べるかにかかっている。せせこましい自分との小さな戦いでもある。

- 石印 -

石は固い。弱気だと指を切る。
第一文字にならない。胆にドンと力を入れ,石をえぐる程の立体心で刻す。
極小の石面だが1ミリずつ刻してゆくと、何時の間にか大きな空間、空中へと変わってくる。
どうでも出来そうに思えてくるから不思議である。

清水義光